Wednesday, November 20, 2013

ホームレス緊急一時宿泊用施設と物質乱用

我々は興味を持ってウェンディー=マックルとジェフリー=ターンブルのホームレスに関する社説を読んだ。1.確かにホームレス緊急一時宿泊施設(以下、ホームレスシェルター)は完璧なものではないが、最低限「家がない」状態からは人々を保護することができる。例えば、あるホームレスの人では認知機能障害に改善の兆しが見られた者もいた。2.ただし、この関連付けはシェルターの質にも寄るものである。3.我々は、ホームレスシェルターに住む31人と英国内シェフィールドの、シェルターなどに住まない15人のホームレスの人々の間の物質乱用の割合を比較した。シェルターに住む4人(13%)と比べて、シェフィールドのグループでは13人(87%)もの人が過去数か月に薬物を注射した経験があった。更にシェフィールドのグループでは、15人全員が前年にヘロイン若しくはクラックコカイン(高純度コカイン)を乱用していた。一方でシェルターに住むグループではその数は10人であった。

            ホームレスという現象は必然的に有害であり、自己の破滅にも繋がるものである。われわれの研究では、シェルターに住むホームレス間の低い薬物乱用の割合にも関わらず、18人は(58%)ホームレスになってから最低でも1つの薬物を使用し始めたと答えた。ホームレスの人々が助けを得ることができないと、彼らの問題は悪化してしまうだろう。彼らが抱える問題を広く知らせるための公共政策は、長期的に見れば費用効果があるだろう。マックルとターンブルが、カナダ政府の実施する予定のホームレス援助費の削減に関して、懸念を示しているのは正しいと言える。

Pluck G, Lee KH & Parks RW (2007). Homeless shelters and substance misuse. Canadian Medical Association Journal176, 489. doi: 10.1503/cmaj.1060229



ホームレスの人々の間での時間的展望、うつ病と物質乱用について

著者達はジンバルドの時間的展望の個人差を測定する尺度である、ZTPIZimbardo Time Perspective Inventory)を使用し、ホームレスの人々は対照グループと比べて、著しく過去と現在に対して否定的な見方を持っていることを発見した。それは、ZTPIの高い過去否定的・現在宿命的な測定結果と、低い過去肯定的な測定結果に表されている。しかし、未来についての考え方と、現在の享楽に関する測定結果では対照グループとほぼ差がなかった。また、ホームレスの人々の方がうつ症状を多く示し、中でも50人中31人(62パーセント)はうつ病と診断するのに十分な基準を満たしていた。他方でこの結果は、彼らの通常とは異なる時間的展望とは関係がなかった。また、物質乱用と時間的展望に関しても関連性は見つからなかった。うつ病や薬物乱用などの困難にもかかわらず、ホームレスの人々は目標を達成するという未来に対する考え方は維持していることが分かる。


Pluck G, Lee KH, Lauder HE, Fox JM, Spence SA & Parks RW. (2008). Time perspective, depression, and substance misuse among the homeless. The Journal of Psychology, 142, 159-168. doi:10.3200/JRLP.142.2.159-168 



パーキンソン病の気質における認知・情動の相互関係

パーキンソン病の患者はクロニンジャーの3次元人格診断表において、目新しさの追求という分野で低い点数を見せる。それは、この疾患の特徴でもあるドーパミンの不足という形によって反映されている。又、パーキンソン病の患者は、危険回避の分野でも高い点数を見せる。これらや他の観察から、いわゆる「パーキンソン病的性格」というものが提唱されてきているものの、パーキンソン病において頻繁に発症するとされる認知障害・情動障害と上記の特徴との関連性については、ほぼ知られていない。我々は、3次元人格診断表の点数と20人の患者に課した注意力指向性の課題での結果とを分析した。加えて、3次元人格診断表の点数とうつ病・不安障害との関連も分析した。分析の結果、目新しさの追求分野での点数は、注意力指向性課題の「視的な独創物」に対する反応速度と明らかな関連性があった。危険回避の分野での点数は、不安障害とは関連があったものの、うつ病との関連はなかった。これらの発見は我々の、気質が認知・情動とどのように作用しあっているかの理解を広めてくれるものである。


Pluck G & Brown RG (2011). Cognitive and affective correlates of temperament in Parkinson's disease. Depression Research and Treatment.Article ID 893873 doi:10.1155/2011/893873 

http://downloads.hindawi.com/journals/drt/2011/893873.pdf


パーキンソン病における物事への無関心さ

目標:パーキンソン病患者の物事への無関心さとそれによって引き起こされる障害、患者の機嫌、人格、認知との関係を評価すること。
方法:パーキンソン病患者45人の無関心さの度合いを、パーキンソン病と症状が同じ骨関節炎の患者17人と比較した。付加的に、うつ病・不安障害・患者の喜びの量を測定した精神神経系のデータも収集した。なお人格は3次元人格診断表を用いて測定した。認知機能測定には、ミニメンタルステート検査・CAMCOG、その他認知制御に関する課題を実施した。
結果:パーキンソン病患者の方が同症状の骨関節炎の患者より、圧倒的に物事への無関心さの度合いが高かった。更に、パーキンソン病患者限定の抽出結果では、無関心さの度合いは疾患の進行状況とは関係がないことも分かった。高い無関心さの度合いを示したパーキンソン病患者の方が感じる喜びの量は少なかったものの、必ずしも、無関心さの低い度合いを示した患者よりもうつであったり不安である訳ではなかった。また、比較した双方の疾患の患者ともに互いに人格の特徴に違いは見受けられず、パーキンソン病患者のグループ内でも無関心さの度合いに関係なく人格に違いは見受けられなかった。認知機能に関しては、比較した双方の疾患の患者ともに互いに同等の能力であった。しかし、パーキンソン病患者限定の抽出結果においては、無関心さの度合いが高いグループの方が低いグループよりも認知制御の課題を果たせた患者が少なかった。

結論:パーキンソン病患者における物事への無関心さは、障害への適応・反応によるものというよりは、障害関連の患者の生理的な変化によって起こるものである可能性が高い。パーキンソン病患者に起こる無関心さというものは、疾患と関連している他の精神医学的症状や人格の特徴とは区別ができるものであり、認知機能障害と深く関わりがある。これらの発見は、無関心さの表出で認知機能が果たす役割を指し示している。


Pluck G & Brown RG (2002). Apathy in Parkinson's disease. Journal of Neurology Neurosurgery and Psychiatry, 73, 636-642. doi:10.1136/jnnp.73.6.636